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No.536 カルメン故郷に帰る

作品名

「カルメン故郷に帰る」 ‘51年度作品

監督

木下 恵介

出演

  • 高峰 秀子
  • 笠 智衆

あらすじ

 軽井沢は浅間山のふもとにあるのどかな村に、芸術家として東京で活躍中
のリリィ・カルメン(高峰 秀子)が友達を連れて帰ってくると連絡があっ
た。
 
 有名な芸術家が帰ってくるのは瞬く間に村中の噂になった。ところがリリ
ィの父親は家出したリリィを今も許してなかった。校長先生(笠 智衆)が
父親をなだめて、ようやく事は穏便に運ぶ気配になった。
 
 リリィの乗った列車を校長先生たちが出迎えた。しかし姿を現したリリィ
と友達は原色のハイカラな服装だった。さらに彼女の持ってきたブロマイド
は村人たちから好奇の目で見られた。どうやらリリィはストリップをやって
いるらしいが、当の本人はそれを芸術と思っていた。
 
 リリィたちの素性が判ってくると村人たちの態度が変わった。そこに起っ
た事件でリリィたちは村人たちの笑い者になってしまった。それに傷ついた
リリイは村人の前で踊りを披露すれば、自分を見る目が変わり、故郷に錦が
飾れると考えた。村の興行師も銭になると企み、リリィのステージを後押し
した。
 その話を聞きつけたリリィの父親は、ついに堪忍袋の緒が切れた。
 
 

お勧めポイント

 親はどんな時も子を見守っている
 
 奇妙な太鼓の音をバックに繰り広げる踊りに唖然としました。その奇抜さ
は驚きを通り越しています。しかし不思議な作品だと思わせたのは前半だけ
で、後半はなかなかの人情話にホロっときます。
 
 浅間山を背に大自然の華やかさは本当に素晴らしいです。しかし一番華や
かなのは高峰秀子さん演じるリリィ・カルメンです。大高原で踊る姿はスケ
ールの大きさを感じます。きっとこの作品の頃から日本女性の社会進出が始
まったのでしょう。それを象徴する作品だと思います。
 
 本作は日本初の総天然色です。リリィの真っ赤なドレスは、当時の観客た
ちの目に焼き付いたと思います。今なら当然のように思っているカラー作品
も当時の人にはハイカラの象徴と映ったことでしょう。
 
 カルメンのステージの最初が笑えます。バラの花を咥えたカルメンが『ア
ーー、カルメン』と言ってバラの花を投げます。そのセリフが何ともあっけ
なく言い放つところです。また、お父さんが『あの子は昔、木の下で牛に蹴
られてから、どうも頭がヘンになった』と本気で信じている点です。しか
し、そう信じているからこそ、自分の娘に最後まで愛情を注いでくれる姿に
涙が出ます。
 
 ステージの前後で村人たちに心境の変化があります。カルメンの行動の
数々が今まで我慢していたものを一気に吐き出させたのでしょう。そしてカ
ルメン自身も故郷に錦を飾ったと得意げに東京に帰って行きます。のどかな
山間の村に突如吹き荒れた一遍の風が、人々を良い方向へ導いていきます。
 
 終わってみれば、なるほどと感心する作品です。単に日本初フルカラー作
品というだけではなく、木下恵介監督の人情味あふれる場面の数々が名作だ
と言われる由縁だと思いました。
 
 風も肌寒くなってきましたが、この作品でせめて心だけでも温まってくだ
さい。

ポイント

笑える度 :★★★
ファイト度:☆☆☆☆
ほのぼの度:★★★★★
スッキリ度:☆☆☆
感動度  :★★